研究分野

ナノマテリアル科学技術の世界的研究拠点形成

材料インフォマティクス部門

計算科学・AI分野

最近の主要な研究
「計算シミュレーションとAI技術の融合による機能物質探索」
杉本 学 准教授

機能性物質を探索するために、第一原理電子状態計算や分子動力学計算を用いた計算シミュレーションと、機械学習を中心とするAI技術を応用する研究を行っている。機械学習の応用では、特に「電子状態インフォマティクス」と呼ばれる独自の手法を提唱している。

機能物質探索においては、目的とする構造、物性、反応性を支配する重要因子の発見が重要であるが、複雑な現象については、何が重要かを解析的に研究することが困難であることが多い。このため、観測される現象を再現した後にその重要因子を解明する「解析型」の計算シミュレーション研究だけでは十分な物質探索ができない。また、重要因子がわかっても物質予測は困難である。

我々の研究グループでは、物質を記述する特徴量を化学理論や物性理論に基づいて独自に定義し、その数値データを計算シミュレーションで評価することによって、目的とする物性値や反応性を予測する回帰モデルや分類モデルを構築している。そして、構築したこれらのモデルを用いて、注目する物性値の予測値を調べながら、既存データベースからの化合物スクリーニングや仮想分子に関するバーチャルスクリーニングを行っている。

杉本 学, 「電子状態インフォマティクスに基づく物質探索」, 日本化学会情報化学部会誌, 34, 112 (2016).

計算科学・AI分野

最近の主要な研究
「触媒実験インフォマティクスによる次世代発電・化学変換技術の開発」
大山 順也 准教授

次世代エネルギー利活用、ゼロエミッション、高効率化学変換プロセスの実現において、キーマテリアルである固体触媒の材料・技術革新が必要不可欠である。そこで、複雑系である固体触媒を、精密系である錯体・分子触媒のように理解し操作することはできないか?我々は、実用的触媒の実験研究へインフォマティクス技術を導入することによって、固体触媒の構造-機能の関係の解明、さらに、それに基づいた新規触媒の開発を実施する。

担持金属触媒では、モフォロジー効果、金属-担体間の接合、接合界面での結晶構造・格子間隔の不一致、担体の凹凸などによってモデル構造では見られない活性点構造が生成している。我々は、原子スケールSTEM観察やin
situ
XAFS分光法などの高度な分析技術を駆使することで実際の触媒構造を解析し、ナノサイズ以下で現れる特殊な活性点構造とその機能を解明することに取り組んでいる。特に、夢の反応と言われるメタンの部分酸化反応、また、次世代発電システムである燃料電池電極反応に革新をもたらす触媒の開発を目指して研究を進めている。

分析・解析分野

最近の主要な研究
「世界初、測定データだけで物質のミクロ構造と構造ゆらぎを推定」
— 電池、電子デバイスなどの材料研究に新解析法 —
赤井一郎 教授

電池、電子デバイスなどの機能性部材の新機能発現や性能向上を実現するには、その機能が原子のナノメートルレベルの配位構造に支配されているため、それらを構成する物質の構造とその変化を原子レベルで解明する必要があります。そこで、原子スケールでこのミクロ構造を解析できる「広域X線吸収微細構造(EXAFS:
Extended X-Ray Absorption Fine Structure)」測定法が使用されています。

本研究では、物質を構成する原子がその化学構造や結合状態を反映して規則的に点在(配位)し、そのため着目する原子から隣接原子までの距離が離散的、つまり、まばら(スパース)である事実に着目しました。そこで、EXAFS測定で得られたスペクトルの解析にスパースモデリングと呼ばれる機械学習法を適用した新規解析法を開発しました。その結果、材料のミクロ構造についての事前知識なしで、原子周辺のスパースなミクロ構造と、近接原子の構造ゆらぎや可動性の推定を実現しました。(プレス発表:
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/sizen/20180621)

I. Akai, K. Iwamitsu, Y. Igarashi, M. Okada, H. Setoyama, T. Okajima, Y. Hirai, “Sparse Modeling of an
Extended X-Ray Absorption Fine-Structure Spectrum Based on a Single-Scattering Formalism”, J. Phys. Soc.
Jpn. 87, 074003/1-7 (2018).

分析・解析分野

最近の主要な研究
「極超短光パルスを用いた光機能解明及び新規材料プロセス」
小澄 大輔 准教授

我々のグループでは、フェムト秒という極めて短い時間のパルス幅を持つ光パルスを用いて様々な物性を調べています。このような時間スケールは、物質を構成する原子の振動(分子振動、格子振動)の周期時間に匹敵しています。そのためフェムト秒光パルスを用いることで、光と物質が相互作用する際の極限的な時間スケールで起こる非平衡状態を実時間で観測することができます。例えば化学反応制御に必須な電子移動であったり、植物等が行う光合成において行われているエネルギー伝達のダイナミクスに着目しています。このような目的のため、極超短光パルス発生技術、光パルス診断技術、各種時間分解分光計測の開発・構築を行っています。最近ではサブ10フェムト秒光パルス発生・パルス診断技術を確立し、化学物質・生体試料における電子・エネルギー伝達過程の解明を行っています。

H. Yamamoto, M. Taomoto, A. Itho*, D. Kosumi*, “Electron-transfer behaviors between photoexcited metal
complex and methyl biolegen in ionic nanospheres” J. Photochem. Photobiol .,
401, 112771/1-6 (2020).

IoT分野

最近の主要な研究
「アダマール系列によるバイナリハッシングによる画像検索に関する研究」
上瀧 剛 准教授

Googleなどの画像検索では画像情報そのものではなく、0-1の符号に圧縮したバイナリコード列でデータの保存や照合を行っており、この符号化をバイナリハッシングと呼ぶ。近年、Supervised Discrete Hashing (SDH)と呼ばれるバイナリハッシング手法が注目を浴び、その数理的なアルゴリズムの改良が様々な研究者から行われてきた。これまでの方法では、SDHの解を求めるためには、反復的な行列最適化や場当たり的な組み合わせ最適化を用いていたが、符号長が増えると局所解に陥り性能がでないことや膨大な計算時間を要した。これに対して我々は、SDHモデルの解析解がアダマール行列で与えられることを証明した。解析解であるため、これまでの反復計算や局所解に陥る問題がなくなり、画像検索精度が飛躍的に向上した。

G. Koutaki, K.Shirai and M. Ambai, “Hadamard Coding for Discrete Supervised Hashing”, IEEE Transaction on Image Processing, vol.27, no.11, pp. 5378-5392, 2018.

二次元ナノマテリアル部門

ナノシート分野

最近の主要な研究
「ナノシートを基材に用いた超次元構造の創成と触媒機能に関する研究」
伊田 進太郎 教授

マテリアル化学の分野では、0次元、1次元、2次元材料を駆使して3次元材料を創成し新しい機能性材料の開発が行われてきたが、既存材料は評価されつくされつつあり、新しい概念に基づく材料開発が求められている。物質の結晶構造や結合環境をある程度の範囲で制御でき、かつ実在材料としてその物性評価が可能となれば、従来の特性を凌駕する材料が発見できる可能性がある。そのためには、次元制御された材料の組み合わせだけではなく、次元を超えた材料(超次元材料)を開発する必要ある。我々は、これらを実現できる材料として、2次元材料に注目している。右図はナノシートを用いた超次元材料の創成の概念図である。このような次元変換に基づく構造を超次元構造としてとらえることで、物質変換の手法に依存しない、次元性と物性・機能をダイレクトに説明できる概念を構築できると考えている。本研究では、ナノシートの次元を制御することで作製した構造を超次元構造ととらえ、次元性と触媒機能に関する研究を実施している。

Ida, S*. Sato, K., Nagata, T., Hagiwara, H., Watanabe, M., Kim, N., Shiota, Y., Koinuma, M., Takenaka, S., Sakai, T., Ertekin, E., Ishihara, T., “Cocatalyst stabilizes a hydride intermediate during photocatalytic hydrogen evolution over rhodium doped TiO2 nanosheet” Angew. Chem. Int. Ed., 57, 9073-9077 (2018).

酸化グラフェン分野

最近の主要な研究
「酸化・構造変調グラフェンによる新規機能性ナノ物質の創製に関する研究」
横井 裕之 准教授

グラフェンは炭素原子が六角格子を組む単純な構造の物質であるが,そのような単純な構造ゆえに,優れた電子物性だけでなく,様々な変調構造の導入による新機能創出の場となる。酸化グラフェンはグラフェンの表面あるいはエッジを酸素含有官能基で修飾した物質であり,親水性やイオン伝導性などグラフェンにない性質を呈する。我々は酸化グラフェンを触媒微粒子担体として用いることにより,新規物質であるカーボンナノポットを創製した(右図)。カーボンナノポットには奥深いメソポアなどといった既存ナノ物質を凌駕する特徴があり,実用化に向けた研究を行っている。また,第一原理計算を駆使した酸化グラフェンやカーボンナノポットの微視的構造解析や特性解明,さらにはグラフェンへの新たな変調構造デザインの提案などに取り組んでいる。

横井裕之,松本泰道,「ポット型ナノカーボン材料及びその製造方法」,特許第6569675号,2019年8月16日.

(左上)独自開発のサブマリン式CVDチャンバーの模式図。(左下)カーボンナノポットのTEM画像と構造模式図。矢印は開口部を表す。(右)高分解TEM画像。カーボンナノポットは5つの部位で構成されている。左下挿入図はテーパー状胴部の拡大図であり,グラフェン端が密に形成されている(矢印)。

ナノシート分野

最近の主要な研究
「2次元材料複合系における電気伝導や磁性に関する研究」
原 正大 准教授

グラフェンの研究を皮切りに、様々な2次元材料の研究が多面的に進められている。最近では異なる2次元材料を積層し、新機能を発現させる研究が注目を集めている。本研究では、酸化物ナノシートや水酸化物ナノシートとグラフェンの複合系に重点を置いて、将来のデバイスやセンサー応用を目指している。グラフェンと酸化チタンナノシートを積層させた電界効果トランジスタ(FET)において、酸化チタンナノシート表面に吸着した酸素や水の影響がFET特性に顕著に現れることを発見した。

Yoshida, Y. Imafuku, T. Inoue, D. Uechi, S. Shite, D. Katsuki, Y. Funatsu, A. Shimojo, F. Hara, M.*, “Sensitive detection of water/oxygen molecule adsorption and reaction on a titanium oxide nanosheet with a graphene field effect transistor” Nano Ex., 1, 030022 (2020).

ナノシート分野

最近の主要な研究
「酸化グラフェンを用いたキャパシタに関する研究」
鯉沼 陸央 准教授

酸化グラフェンは、プロトン伝導、絶縁性、ガスバリアなどの様々な特性を有している。その特性は、酸化グラフェン表面の酸化官能基により制御することが可能であり、エポキシ基を多く有する大きなプロトン伝導性を示し、カルボキシル基が多く存在すると金属イオン伝導性や膨潤性が高いことが知られている。その大きなプロトン伝導性を利用することで、電気二重層キャパシタとして有望な特性を持つことが分かった、また、酸化グラフェンは、光や熱などの還元によって電気伝導性を持たせることができるため、電極としても利用することができる。酸化グラフェンの表面を還元させることで、電極・セパレーター・電解質のすべてが酸化グラフェンから構成することができ、セパレーターを必要としないデバイスを開発することができた。また、印加する電圧によっては、二次電池としても作用することが分かった。いくつかの問題点を解決し、更なる改良を行えば、高出力・高エネルギー密度の両方を併せ持つ小型・軽量でフレキシブルなオールカーボン電気化学キャパシタが開発できると期待できる。

C. Ogata, R. Kurogi, K. Hatakeyama, T. Taniguchi, M. Koinuma, Y. Matsumoto, “All-graphene oxide flexible solid-state supercapacitors with Enhanced Electrochemical Performance”, ACS Appl. Mater. & Interfaces, 9(31) , 26151-26160 (2017).

ナノシート分野

最近の主要な研究
「酸化グラフェンを用いた新機能性材料の開発」
畠山 一翔 助教

酸化グラフェンはグラフェン骨格に多くの酸素官能基を持った構造をしており、天然グラファイトから溶液プロセスにより作製可能な実用性の高いナノシートである。また、イオン伝導などの重要な機能性を示すことから、次世代社会を支えるナノ材料としての発展が期待されている。我々は、国内で最も早い時期(2007年ごろ)から酸化グラフェンの研究に取り組み、研究の進展に貢献してきた。研究活動の基盤となるのが、図のように酸化グラフェンの加工技術であり、我々は酸化グラフェンを使用用途に応じて自由に設計することが可能である。実際にこれらの技術を組み合わせることで、革新的な電池や触媒、センサー等を開発してきた。これからも、社会で必要とされる機能性材料を次々と開発していくことで、産業の発展に貢献していく。

Hatakeyama, K.*, Ishikawa, Y., Kirihara, K., Ito, T., Mayumi, K., Ito, K., Terashima, K., Hakuta, Y., Shimizu, Y.*, “Slide-Ring Material/Highly Dispersed Graphene Oxide Composite with Mechanical Strength and Tunable Electrical Conduction as a Stretchable-Base Substrate” ACS Appl. Mater. Interfaces, 12, 47911-47920 (2020).

ナノシート分野

最近の主要な研究
「共有結合性・配位結合性二次元分子フレームワークに関する研究」
國武 雅司 教授

長年にわたって界面を利用した分子スケールの自己組織化とSTMを用いたその場観察に関する研究を行ってきた。溶液中において、分子の配列だけでなく、個々の分子の形状まで視覚化することが可能なSTMは強力な武器であり、ダイナミックに変化する有機分子の自己組織化過程を視覚化することは、分子のふるまいをそのままに理解することを可能とする。研究の集大成として、π共役や配位結合に基づく二次元高分子材料を穏やかな条件で構築する技術を開発している。これらの系では、吸脱着平衡のみならず、反応平衡も制御することで、共有結合性・配位結合性の二次元分子フレームワーク(分子の厚みの二次元ナノシート)を自己組織的に構築することに成功している。目で見る二次元の超分子構造研究から得た自己組織化に関する知見を生かし、新たな機能性を持ったナノ材料開発を目指して研究を行っている。

M. Kunitake, S. Watanabe, A. Ohira, Nanolayer Research Methodology and Technology for Green Chemistry, Ed. by T. Imae, ELSEVIER, Chapter 3, pp.77-114 (2018)

機能評価分野

最近の主要な研究
「分子コンテナを利用したナノグラフェンの組織化に関する研究」
吉本 惣一郎 准教授

グラフェンとはじめとするカーボン材料は、合成、機能、デバイス応用と幅広い研究対象となっている。一方,分子の巨大化・複雑化は溶解度の低下との戦いでもあり,分子機能のキャラクタリゼーションや機能発現への展開は限界に直面している。難溶な分子群の高度な組織化・積層化は,表面科学的な観点からも分子物性の理解,新奇物性を発現する上で重要である。我々は,水溶性のミセル型分子カプセルを利用した「分子コンテナ」法により限界に直面していたナノグラフェンの溶解性の問題を乗り越え,さらなる展開を可能とする新たな扉をこじ開けた。現在,ナノグラフェンの配向制御とその選択的集積化(超構造形成),ナノグラフェン機能化による新奇なパイ電子機能や物性の精密な制御に取り組んでいる。電気化学手法,走査型プローブ顕微鏡を用いたナノスケール可視化,ラマン分光など多角的に情報を収集し,固液界面からのナノグラフェンの組織化と集積化,および機能化により新しい「ナノグラフェン科学」分野の確立を目指している。

Origuchi, S. Kishimoto, M. Yoshizawa, M. Yoshimoto, S.*, “A Supramolecular Approach to Preparation of Nangraphene Adlayers Using Water-soluble Molecular Capsules” Angew. Chem. Int. Ed., 57, 15481?15485 (2018).

ミセル型カプセルによるナノグラフェンの可溶化と高配向ジコロ二レン単分子膜のSTM像。

図. ミセル型カプセルによるナノグラフェンの可溶化と高配向ジコロ二レン単分子膜のSTM像。

表面・粒界部門

触媒機能分野

最近の主要な研究
「高性能金属ナノ薄膜触媒の開発およびハニカム化」
町田 正人 教授

環境・エネルギー分野で用いられる固体触媒では活性な金属粒子の微細化や担体の多孔性が求められる。これは反応表面積すなわち活性点の量を確保するためである。しかし、粒子を微細化するほど高温排気による熱劣化および不純物の吸着や目的外反応による被毒劣化を受け易くなり、結果として性能と寿命が二律背反する問題から避けられない。これに対して、われわれは耐熱性合金箔の表面を厚さ数ナノメートルの金属薄膜で被覆する新たな固体触媒の設計法を提案した。パルスアークプラズマ法で得られる薄膜触媒はその表面が平坦でナノ粒子に比べて比表面積が非常に小さいにもかかわらず、表面金属原子あたりの活性が数十倍も高いために、ナノ粒子を上回る触媒性能を発現する。特定の金属種と反応とを組み合わせ、薄膜の組成・構造制御により触媒活性や熱安定性を向上させることに成功した。さらに薄膜触媒を高密度なハニカム構造とすることによって多様な応用が切り開かれつつある。

M.Machida, Y.Tokudome, A.Maeda, Y.Kuzuhara, T.Hirakawa, T.Sato, H.Yoshida, J.Ohyama, K.Fujii, N.Ishikawa, “Nanometric Platinum Overlayer to Catalyze NH3 Oxidation with High Turnover Frequency”, ACS Catalysis, 10, 4677-4685 (2020).

粒界機能分野

最近の主要な研究
「衝撃荷重下における固体材料の強度特性および損傷進展機構の評価」
川合 伸明 准教授

衝突や爆発などによって生じる、ひずみ速度が104/sを超えるような衝撃荷重下では、材料の強度特性は静的荷重下とは大きく異るため、衝撃荷重下における材料の力学挙動の理解は、構造の耐衝撃性評価、宇宙機のスペースデブリ耐性評価、惑星形成過程における天体衝突過程の理解などにおいて必要不可欠な情報である。我々の研究グループでは、二段式軽ガス銃などの衝撃実験装置を用いて、様々な材料に衝撃荷重を印加し、材料内部を伝播する衝撃応力波を測定・解析することにより、応力状態や構造変化などを評価し、耐衝撃性評価に必要となる衝撃強度モデルの構築を進めている。また、衝撃荷重下での損傷進展の様子を超高速度可視化計測することにより、衝撃損傷の形成・進展機構の評価を進めている。

Kawai, N*. Nagano, M., Hasegawa, S., Sato, E., “In-situ observation of damage evolution in polycarbonate subjected to hypervelocity impact” Int. J. Impact Engineer., 142, 103584 (2020).

(a-c), (e-g):ポリカーボネートターゲットにポリカーボネート球を秒速6キロメートルで衝突させた際の2方向同時超高速度撮影画像 (d),(h): 超高速衝突後のポリカーボネートターゲット

触媒機能分野

最近の主要な研究
「酸化グラフェンを用いた電気化学デバイスの開発」
木田 徹也 教授

グラフェンの中間体、酸化グラフェン(Graphene Oxide (GO))は極めて有望な機能材料である。特に、表面酸素官能基の存在により発現するプロトン導電性は、GOをベースとして各種電気化学デバイスの実現を可能とする。我々は、GOナノシートを積層させた自立膜において、金属イオンとの複合化により室温でナフィオン並みのプロトン導電性が発現することを見出した。さらに、水素関連のデバイスとして、水蒸気電解、水素ポンプ、水素センサ、水素透過膜、メンブレンリアクターとしての応用が可能であることを明らかにした。また、GOのプロトン導電性にヒントを得て、これを固体酸として利用することも試みている。炭素材料の高いマイクロ波吸収効率から、多糖系バイオマスの加水分解がマイクロ波照射によって効率よく進行することを見出した。

T. Kida*, Y. Kuwaki, A. Miyamoto, A., K. Hatakeyama, A. T. Quitain, Sasaki, M., A. Urakawa, “Water Vapor Electrolysis with Proton-Conducting Graphene Oxide Nanosheets”, ACS Sustainable Chem. Eng., 6, 11753-11758 (2018).

触媒機能分野

最近の主要な研究
「コアシェル球状粒子によるpn接合界面の形成と空乏層可視化」
橋新 剛 准教授

抵抗型ガスセンサは,酸化物半導体の表面に存在する吸着酸素と周囲に存在するガス分子との相互作用によってガスの存在を検知している。この仕組みに基づくと,吸着酸素の吸着量を増加させることがガスに対する応答(ガス感度)を増大させるキーになる。吸着酸素は,空気中の酸素が酸化物半導体の表面から電子を奪い,負電荷として吸着することで生成する(吸着酸素:O-, O2-など)。と同時に,酸化物の表面から内部に掛けてキャリア濃度が少ない空間電荷層(空乏層)が形成される。これまでのガス感度の議論は,検出したガス感度に基づく空乏層形成モデルの立案が多いが,空乏層の増加・減少を故意に生じさせることで,ガス感度をチューニングする試みは行われてこなかった。酸化物異種接合の組合せ,被検ガス種,ガス感度の相関をデータベース化できれば,実験時間が短くなり,無駄な試薬の浪費を低減できる。このような背景から酸化物半導体の組合せ設計指針を得る最初の取り組みとして,ケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)の表面電位計測によって空乏層の可視化を試みている。

Sakaguchi, C. Nara, Y., Hashishin, T*., Abe, H., Matsuda, M., Tsurekawa, S., Kubota, H., “Direct observation of potential phase at joining interface between p-MgO and n-MgFe2O4” Sci. Rep., 10, 17055 (2020).

薄膜分野

最近の主要な研究
「ゾルゲル複合体による多孔性薄膜材料に関する基礎的研究」
小林 牧子 准教授

ゾルゲル複合体とは、セラミックス粉体と前駆体溶液の混合物を何らかの基板上に塗布し、熱処理を行った結果生成される薄膜である。熱処理によりゾルゲル相が収縮することにより、薄膜は右図の表面SEM像のように、密ではない多孔性薄膜となる。ゾルゲル複合体による圧電材料はその優れた耐熱性から、高温超音波センサ応用などのデバイス応用研究が進められてきたが、基礎研究に関してはほとんど進んでいない。セラミックス材料と前駆体溶液は同じ材料である必要はなく、むしろ違う材料を組み合わせることで、特性の向上が期待できる。誘電率の高いゾルゲル溶液と誘電率の低い強誘電体材料粉体の組み合わせが有効であることは過去の研究から明らかであるが、近年それ以外の有効な組み合わせも発見されている。その組み合わせも有効であるメカニズムを現在究明中である。

Bi4Ti3O12/絶縁体による非鉛ゾルゲル複合体超音波トランスデューサ, 小林牧子*, 野澤勝平, 岡田一希超音波Techno 31(2) 45‐50 2019年4月1日.

バイオマテリアル部門

バイオマテリアル分野

最近の主要な研究
「医用材料としてのナノプレート、ナノシートの機能化に関する研究」
新留 琢郎 教授

近年、薬物が低分子から中分子や高分子へ多様化している。我々は、シクロデキストリン (CyD) から成る超分子を用いて、様々な薬物に対するアクセサリーやナノロボットをデザイン・設計し、薬物の魅力を最大限に引き出すことで、新たな医薬品を創製する研究を展開している。例えば、タンパク質にアダマンタンを修飾し、ポリエチレングリコール (PEG) 化 β-CyD を混合すると、アダマンタンと β-CyD のホスト-ゲスト相互作用を介して可逆的に PEG をタンパク質に修飾できる。本技術は、タンパク質にイヤリングを装飾したように見えることから、超分子イヤリング技術と命名した。また、タンパク質や抗体の複雑な構造や電荷分布に合わせて変形する超分子ナノロボットも構築した。本ナノロボットに薬物を搭載すると、安定性が劇的に向上するとともに、in vivo における効果を持続させた。さらに現在、疾患組織の環境を察知して変形・崩壊する超分子ナノロボットの構築も行っている。これらの概念は、未来の生体素材を創造する上で有用であると考え、我々は現在、超分子と薬学を融合した新奇学術領域「超分子薬学」を提案している。

Higashi, T.*, Morita, K., Song, X., Zhu, J., Tamura, A., Yui, N., Motoyama, K., Arima, H.*, Li, J.*, “One-pot synthesis of cyclodextrin-based radial poly[n]catenanes” Commun. Chem., 2, 78 (2019).

金コートした銀ナノプレート

バイオマテリアル分野

最近の主要な研究
「医薬のための超分子アクセサリー・超分子ナノロボットの設計と超分子薬学の創生」
東 大志 准教授

近年、薬物が低分子から中分子や高分子へ多様化している。我々は、シクロデキストリン (CyD) から成る超分子を用いて、様々な薬物に対するアクセサリーやナノロボットをデザイン・設計し、薬物の魅力を最大限に引き出すことで、新たな医薬品を創製する研究を展開している。例えば、タンパク質にアダマンタンを修飾し、ポリエチレングリコール (PEG) 化 β-CyD を混合すると、アダマンタンと β-CyD のホスト-ゲスト相互作用を介して可逆的に PEG をタンパク質に修飾できる。本技術は、タンパク質にイヤリングを装飾したように見えることから、超分子イヤリング技術と命名した。また、タンパク質や抗体の複雑な構造や電荷分布に合わせて変形する超分子ナノロボットも構築した。本ナノロボットに薬物を搭載すると、安定性が劇的に向上するとともに、in vivo における効果を持続させた。さらに現在、疾患組織の環境を察知して変形・崩壊する超分子ナノロボットの構築も行っている。これらの概念は、未来の生体素材を創造する上で有用であると考え、我々は現在、超分子と薬学を融合した新奇学術領域「超分子薬学」を提案している。

Higashi, T.*, Morita, K., Song, X., Zhu, J., Tamura, A., Yui, N., Motoyama, K., Arima, H.*, Li, J.*, “One-pot synthesis of cyclodextrin-based radial poly[n]catenanes” Commun. Chem., 2, 78 (2019).

医薬のための超分子アクセサリー・超分子ナノロボットの設計と超分子薬学の創生

バイオマテリアル分野

最近の主要な研究
「亜臨界水を利用した酢の製造残渣の液化ならびに含窒素化合物とミネラルの高効率回収」
佐々木 満 准教授

近年、日本では産業廃棄物の発生など環境問題が深刻化している。特に、食品加工残渣は、通常、多額の費用をかけて処分されている。この論文では、亜臨界水を使用して酢製造からの2つの副産物(米ヌカと酒カス)の処理を研究し、抽出された溶液の機能性成分を定量分析した。その結果、酒カスや米ヌカを用いた場合、処理温度180℃、処理時間30分において、原料中の含窒素成分(主にタンパク質)の75~85%が水溶性ペプチドやアミノ酸、アンモニアへ可溶化されることがわかった。しかし、190℃以上の反応温度で処理すると、含窒素成分の可溶化率が大幅に低下した。これは原料中のカルシウムがCaCN2等のアミノ酸やアンモニアとの水不溶性複合体の形成に利用されること等によると推察できた。亜臨界水処理は、固形残渣バイオマスを出発物質として、有用な水溶性成分を回収する有効な技術であることが示された。

Yamato, K., Minami, K., Hirayama S., Hoshino Y., Kida, T., Sasaki, M*, Matsumori, Y., “Recovery and liquefaction of nitrogen-containing component and minerals from food processing wastes of vinegar using subcritical water” SN Applied Sciences, 2(12), 1-9 (2020).

バイオエレクトリクス分野

最近の主要な研究
「新しい物理的刺激に対するヒト細胞の応答反応の解析と医療応用」
矢野 憲一 教授

私達はナノ秒パルス高電界やUVパルスレーザーといった新しい物理的刺激が、ヒト細胞に対してどのような応答反応を誘発するかを解析し、これらの物理的刺激を医療をはじめとする生命科学に応用することを目指して研究を行っている。ナノ秒パルス高電界は癌治療の新手段として注目されているが、これが新しいタイプの生体ストレスとして作用して細胞死を誘発することや、免疫細胞の刺激となりうることを示してきた。またUVパルスレーザーを使い、生きた細胞の核中の任意の部位にDNA切断を誘発する手法を確立し、癌の放射線治療や抗ガン剤治療の基盤となっているDNA損傷応答のライブイメージング解析に取り組んでいる。

Koga, T., Morotomi-Yano, K., Sakugawa, T., Saitoh, H., Yano, K*. “Nanosecond pulsed electric fields induce extracellular release of chromosomal DNA and histone citrullination in neutrophil-differentiated HL-60 cells” Scientific Reports, 9, 8451 (2019).

UVパルスレーザー照射によるDNA切断部位に秒単位で集まる損傷応答タンパク質のライブイメージング

(上図: ナノ秒パルス高電界による免疫細胞(好中球)の活性化、下図: UVパルスレーザー照射によるDNA切断部位に秒単位で集まる損傷応答タンパク質のライブイメージング)

バイオエレクトリクス分野

最近の主要な研究
「機能性低分子抗体の創製と次世代抗体医薬品の開発研究」
森岡 弘志 教授

生体の免疫応答の場で働く抗体は、抗原分子に対して特異的に結合する性質を持ち、医療や研究の様々な分野でツールとして利用されています。抗体分子のうち、抗原を認識する場所が可変領域(Fv領域)といわれる部分です。Fv領域は、重鎖(H鎖)由来のVH部分と軽鎖(L鎖)由来のVL部分から成ります。このVHとVLをペプチドリンカー(十数個のアミノ酸からなるペプチド)でつないだ分子が一本鎖抗体(scFv)です。scFvの大きな特徴は、標的分子(抗原)をとらえることができるターゲティング能をもつことです。抗原が病気に関与する物質である場合、scFvは、その病気にかかっているかどうかの診断(病態解析)やその分子のはたらきを抑える薬としての利用につながります。scFvは、IgG抗体よりも分子量が小さいため、細胞内で速やかに動き、その効力を発揮します。また、低分子量という性質は、バクテリアでの生産が可能で、安価に製造できるという利点があります。一方で、VHとVLの間の相互作用が弱いため、しばしば不安定化や活性の低下を招いてしまいます。この凝集性の問題は解決することが難しく、scFvの医薬品への応用は停滞していました。私たちは、scFvの末端同士をペプチド結合で連結した環状一本鎖抗体(環状scFv)を創製しました。環状scFvは凝集性が通常のscFvに比べて大幅に低減されていることを見出しました。私たちの研究室では、この環状scFvを医薬品に応用することを目指した研究を進めています。

Liu, C., Kobashigawa, Y., Yamauchi, S., Fukuda, N., Sato, T., Masuda, T., Ohtsuki, S., Morioka, H*., “Convenient method of producing cyclic single-chain Fv antibodies by split-intein-mediated protein ligation and chaperone co-expression” J. Biochem. 168, 257-263 (2020).

バイオエレクトリクス分野

最近の主要な研究
「パルスパワーによる生体物性制御とその食品プロセス応用」
勝木 淳 教授

・高電界パルスを用いる細胞膜穿孔と介膜物質輸送の制御 細胞に高電界パルス(PEF)を印加すると、電荷蓄積によって細胞膜を貫く超高電界が生じ、細胞膜が壊れます。膜破壊は細胞内外の物質流動を惹起します。これは生細胞にとって致命的で、細菌を対象とすれば殺菌になります。また、細胞内物質の抽出などにも利用できます。PEFは非加熱プロセスであり、熱に弱い食材の殺菌や加工に利用できます。

・100 MV/m級超高電界下のタンパク質の挙動と制御 PEFを印加した細胞膜に存在する膜タンパクは100 MV/mを超える超電界に晒されます。これは分子内部の電界に匹敵し、分子の構造や機能に影響する可能性があります。私達は150 MV/mの超高電界を発生するナノ秒パルスパワー装置を開発し、超高電界の様々なタンパク質への影響を調べています。200 MV/m程度以上の電界によって、ウレアーゼなどある種の多量体タンパクの構造と機能が変化することを明らかにしました。

・高電界パルスを用いる液体の非加熱殺菌技術開発 高電界パルスを用いる液体殺菌において、少流量処理であれば効率よく菌を殺滅できます。実用的な大流量では、熱流体的な挙動や液体-電極間の相互作用が影響し、殺菌が難しくなります。食品・機械メーカーと協力してパイロット殺菌試験装置を構築し、大流量処理の場合の課題を洗い出し、解決策を検討しています。

食品プロセス用の各種高電界パルス処理装置を開放しており、持ち込みサンプルのパルスパワー処理のトライアル試験を行っています。関心をお持ちの方は気軽にご相談ください。
※ 研究室URL(検索キーワード): 勝木、バイオエレクトリクス、など

材料プロセス部門

表面・接合加工プロセス分野

最近の主要な研究
「超微細粒材料の力学特性の評価に関する研究」
北原 弘基 教授

金属材料中の結晶粒径をサブミクロン・ナノレベルまで微細化すると、強度が著しく向上することが知られている。巨大ひずみ加工、表層強加工、線引き加工により作製されたナノ結晶材料、超微細粒材料の静的強度および疲労等の変形機構の解明を行っている。また、単結晶に対して同様の加工を行い、結晶粒微細化過程の解明も行っている。

Watanabe, M. Kitahara, H.*, Takamatsu, Y., Tsushida, M., Ando, S., “Roles of Slip and Twinning on Indentation Formations in Magnesium Alloy Single Crystals” Mater. Trans., 61, 948-954 (2020).

超微細粒チタンの超微細粒組織と引張特性の評価および亜鉛単結晶

超微細粒チタンの超微細粒組織と引張特性の評価および亜鉛単結晶を用いた巨大ひずみ(ECAP)加工中の結晶粒微細化過程の観察。

表面・接合加工プロセス分野

最近の主要な研究
「トライボロジーからの着眼点による材料表面加工」
中西 義孝 教授

“相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう 二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術”である“トライボロ ジー”からの着眼点をベースに、マテリアルとマテリアル、生体組織とマテリアル、細胞とマテリアルなど、物質同士のインタラクションとコミュニケーシ ョンのサイエンスである”物質の境界学(Physical Boundarology)“について思考している。特に、実践の場となる表面加工分野では、境界面となる様々な材料表面の調整・加工法に注目しており、望む機能を発現するマイクロ・ナノパターンを機械的除去加工法で創製する3-dSupreme(3-dimensional Surface Processing through Elimination by Mechanical Removing)テクノロジーの革新と実践への応用を行っている。

Nakanishi, Y*., Nakashima, Y., Fujiwara, Y., Komohara, Y., Hino, K., Miura, H., Higaki, H., “Microfluidic device used for the secretion of inflammatory cytokines from human monocyte-derived macrophages stimulated by ultra-high molecular weight polyethylene particles” Biotribology, 23, 9 pages (2020). https://doi.org/10.1016/j.biotri.2020.100137

トライボロジーからの着眼点による材料表面加工

表面・接合加工プロセス分野

最近の主要な研究
「化学反応を利用した原子オーダー・ナノ精度表面創成法の開発」
久保田 章亀 准教授

化学反応を利用した原子オーダーの表面創成法について,その原理の解明から具体的な応用展開に向けた装置開発を行っています.現在は,主として,高硬度かつ化学的に安定な炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN),ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体の基板を高能率に原子レベルの精度で平坦化できる加工法の研究・開発に取り組んでいます.触媒反応の一種であるフェントン反応によって過酸化水素水溶液中の鉄表面極近傍に生じるOHラジカルを利用し,加工物の最表面層を酸化改質して,その改質層を除去するという新しい表面創成法によって,結晶構造の乱れのない原子レベルで平坦な基板表面の作製に成功しています.また,大気環境下での金属酸化物と被加工物間での摩擦化学反応(トライボケミカル反応,メカノケミカル反応)を効果的に利用した新しい表面創成法も提案・開発しており,高い加工精度を維持しながらも,加工能率を飛躍的に向上させることに成功しています。

Kubota, A., Nagae, S., Motoyama, S., “High-precision mechanical polishing method for diamond substrate using micron-sized diamond abrasive grains” Diamond and Related Materials, 101, 107644 (2020).

衝撃エネルギープロセス分野

最近の主要な研究
「爆薬由来の衝撃波を用いた微細加工技術」
田中 茂 助教

恒常的な要求である機器の小型化に対応するために、レーザー誘起衝撃波を用いた微細加工に関する研究が盛んに行われている。Laser Shock Punching (LSP)は、衝撃波によって金属シートに微細孔を形成する技術であるが、その限界はレーザー強度や収束領域に依存しており、アスペクト比(シート厚/孔径)は0.02と低く、一回の処理あたり単一孔の加工にとどまっている。
爆薬由来の水中衝撃波を用いると、LSPの欠点を克服することが出来る。これまでに、アスペクト比0.33で104孔のシングルステップ加工を達成している(図)。これは、フォトエッチングに代わって、次世代リードフレーム(ICやLSIの構成部品)の製造技術に発展する可能性を持っている。本技術は、マイクロ/ナノインプリント技術にも応用可能であり、撥水性を有する植物葉の形状や光の屈折を制御する周期構造を金属表面に付与する研究に取り組んでいる。

Tanaka, S., Bataev, I., Nishi, M., Balagansky, I., Hokamoto, K., “Micropunching large-area metal sheets using underwater shock wave: Experimental study and numerical simulation” Int. J. Mach. Tools Manuf., 147, 103457 (2019).

104孔のシングルステップ加工

電気パルスプロセス分野

最近の主要な研究
「水面上パルス放電プラズマによる化学活性種生成及びその応用研究」
佐久川 貴志 教授

水面上や水中にパルスパワーと呼ばれる高電圧短パルスの特殊電力を用いて,高電界を伴うパルス放電プラズマを発生させることが出来る.この放電は気体のストリーマ放電と同様に,紫外線,衝撃波,高電界,化学活性種が生成することが知られている.これら化学活性種の中にはOHラジカル(OH・)やオゾン(O3),酸素原子ラジカル(O・)のような酸化力の高い物質が含まれている.化学活性種の中でも,OHラジカルには活性酸素の中で最も高い酸化力があり,オゾンや過酸化水素で処理できない難分解性のダイオキシンや農薬等の有機物を分解することができる.このようなパルス放電プラズマは,有機物の分解,殺菌といった水処理への応用が期待され多くの研究が行われている.特に水面上パルス放電プラズマは,気体と液体の界面での放電であるため多くの活性種が生成される.このパルス放電プラズマが化学活性場を形成し,いくつかの反応プロセスを経て酸化力の高い物質が生み出される.プラズマによる反応生成物を測定する方法として発光スペクトル測定して生成物を同定する方法がある.水面上パルス放電プラズマの応用を進めるうえで生成特性の解明は重要な課題となっている.我々は,通常,多数枝分かれし,放射状に広がるストリーマ状放電の進展を一方向のみに進展する放電ガイドを作成することで,放電進展方向を制御することに成功した.これに加え高繰り返しパルスパワー発生装置を用いたパルス放電プラズマの繰り返し安定性が大幅に向上し,活性種生成とプラズマ発光分光計測が繰り返し安定的に行えるようになり、バイオ応用や水素生成の実用化に近づいた.

佐久川貴志「水面上パルス放電プラズマによる化学活性種生成」ケミカルエンジニヤリング, Vol.65,No.8, pp.484-490 (2020).

電気パルスプロセス分野

最近の主要な研究
「液中パルスプラズマ法を用いた極小の貴金属ナノ粒子を合成する技術の開発」
真下 茂 特任教授
依田真一 客員教授

熊本大学では、これまでに液中パルスプラズ法(液中繰り返し火花放電)を用いた熊本大学独自のナノ粒子の合成法を確立し、単体金属ナノ粒子、合金ナノ粒子、化合物ナノ粒子、修飾型ナノ粒子などの合成を行ってきました。金属ナノ粒子ではこれまでは平均粒径が3 nm以上の金属ナノ粒子しか合成できませんでしたが、今回、瞬間的な電流量(ピーク電流)を2倍以上上げることにより、金、パラジウム、白金で平均粒径が2 nm以下の極小ナノ粒子を合成する技術を開発しました(特許申請済)。

金属ナノ粒子の大きさは、動的光散乱法で数値的に、透過電子顕微鏡(TEM)で視覚的に測定します。これまでに、液中火花放電法によって測定限界以下である平均粒径 1 nm以下の金ナノ粒子、平均粒径 2 nm以下のパラジウム及び白金ナノ粒子の合成に成功しており、今後、ロジウム、ルテニウム、銀などの単体貴金属ナノ粒子、さらに、合金ナノ粒子、化合物ナノ粒子に広げていく予定です。これらの貴金属ナノ粒子は、触媒、医療材料、抗菌材料として応用が期待されます。すでに、半導体製造への応用研究などを進めています。

T. Mashimo, S. Tamura, K. Yamamoto, Z. Kelgenbaeva, W. Ma, M. Tokuda, M. Koinuma, H. Isobe and A. Yoshiasa, “Synthesis of Pd–Ru solid-solution nanoparticles by pulsed plasma in liquid method”, RSC Advances 10, 13232 (2020).

図2 液中火花放電によるナノ粒子合成装置の写真

図2 合成された金ナノ粒子のTEM写真と動的光散乱法による平均粒径測定結果(平均粒径:≤1 nm)

図2 合成されたパラジウムナノ粒子のTEM写真と動的光散乱法による平均粒径測定結果(平均粒径:≤2 nm)